ワールド・ワイド・ウェブ30周年を迎え、何がインターネットの再分散化を促すのか

著者: Robert Mao
編集: Matt McKinney
以下のブログ記事は、ArcBlock CEO の Robert Mao が World Wide Web Consortium (W3C) の招待専門家として、2019年3月12日のワールド・ワイド・ウェブ30周年を記念して執筆したものです。

30年前、Tim Berners-Lee という若い英国人ソフトウェアエンジニアが、「Information Management: A Proposal」という白書を、スイスのジュネーブにある欧州原子核研究機構(CERN)で起草しました。彼が提案したのは、相互接続された多数のハイパーテキストからなる情報システムです。これにより、世界各地で CERN とともに働く数万人の科学者が、インターネット経由で研究資料や成果をより簡単に共有できるようになります。この構想はやがて、私たちの日常生活に欠かせないワールド・ワイド・ウェブの誕生へとつながりました。
30年後の今日、38億9,000万人がインターネットを利用しています。Web には少なくとも52億9,000万のウェブページと12億4,000万のウェブサイトがあり、世界のインターネット企業上位20社の時価総額は合計で約5兆8,000億米ドルに達します。しかし「Web の父」Tim Berners-Lee にとって、この現実は、原子物理学者 Robert Oppenheimer が広島の原子爆弾を目の当たりにしたときと似た苦い思いを生みました。分散型の情報管理システムを構築することを目指した天才的な発明は、巨大企業が利益を得るための中央集権型プラットフォームへと完全に変貌し、独占が支配し、利用者のプライバシーがたびたび侵害されるようになったのです。Google は世界の検索エンジン市場の90%を占め、Facebook は2018年だけで8,700万人の利用者情報を流出させました。

「分散化」という概念から生まれたインターネットは、30年を経て、どのように中央集権型の情報の渦へと変わったのでしょうか。
多くのデジタル通信システムと同様に、インターネットは階層構造で設計されています。最下層には、さまざまなネットワークや機器が情報を交換、つまり「internetwork」できるようにするあらゆるプロトコルがあります(internet という名称もここに由来します)。ルーターや WiFi を使ってインターネットに接続するとき、この層は「分散型」です。単一の企業がこれらのプロトコルを支配していないためです(世界のネットワークサービスプロバイダーが5社未満であるという事実はありますが)。
しかし、その一つ上の層、すなわちインターネット自体の上で起きるすべてのことは、はるかに集中するようになりました。オンライン検索からソーシャルネットワークまで、多くの消費者向けサービスを含む Web やその他のインターネットアプリケーションでは、とりわけ顕著です。
インターネットの「第3層」と呼べるもの、つまりインターネットから生まれたあらゆる拡張領域でも、中央集権化が蔓延しています。ほとんどの人が利用するスマートフォンのオペレーティングシステムは、Apple の iOS か Google の Android のどちらかです。クラウドコンピューティングは Amazon、Google、Microsoft の三つ巴です。そしてデータがあります。Amazon、Facebook、Google は、それぞれの中核市場を支配するだけでなく、西側のどのオンライン企業よりも多くのデジタル情報を蓄積してきました。実際、これらの企業は、保管する情報を利用してターゲティング広告を販売し、人工知能(AI)サービスを動かす、惑星規模のデータベースとみなすことができます。
なぜインターネットは、階層を上がるほど中央集権化するのでしょうか。実は、インターネットは「記憶」を持たずに構築されました。その基本機能はデータを移動し、情報を公開することであり、プロトコルは以前に何が誰によって送信されたかを記録しません。元のプロトコルを開発した Internet Engineering Task Force と World Wide Web Consortium(W3C)は、この規則を追加することもできましたが、そうしませんでした。初期のインターネット設計者たちは理想主義的すぎて、基盤となるプロトコルに健全なガバナンスの仕組みを書き込みませんでした。当時作られたプロトコルだけで中央集権化を防げると考えていたものの、その空白に民間の主体が殺到したのです。
たとえば初期の E コマースは、顧客の過去の購入履歴を保存できませんでした。そこで Netscape がブラウザーにキャッシュされる Cookie を発明し、インターネットに「記憶」を与えると同時に、パンドラの箱を開きました。Google の中核的なビジネスモデルは、ウェブサイトのインデックスリストと利用者の検索行動データベースの上に成り立っています。Facebook は利用者が誰で、互いにどのように交流しているかを追跡し続けなければなりません。Amazon はクレジットカード番号と利用者の購入履歴を収集します。このデータはブラウザーに「キャッシュ」されるだけではなく、サーバーに恒久的に保存されます。そこでネットワーク効果が生じ、その価値は指数関数的に高まります。
Google を例に取りましょう。Google は前世紀末、かつて最も有名な検索エンジンだった Alta Vista を追い越しました。シンプルなインターフェースと、高速で正確な検索機能によって利用者を引きつけ、つなぎ留めたのです。利用者が Google に集まると、そのトラフィックがウェブサイトを呼び込みます。ネットワーク効果と波及効果による二重の加速によって、Google は急速に抜きん出ました。競合他社が気づいたころには、Google ははるか先を走っていました。

ネットワーク効果によって成長する Google や Facebook のようなインターネットプラットフォームは、いずれも存続のために広告へ依存しています。eMarketer によれば、現在、両社は米国のオンライン広告収入の約60%を生み出しています。この選択により、両社は利用者について可能な限り多くのデータを収集せざるを得ません。情報が多いほど、より正確に広告の対象を絞り込み、料金を請求できるからです。ビジネスモデルとしてのオンライン広告には二つの欠点があります。第一に、企業に利用者をより綿密に追跡させること。第二に、広告主が最大限の露出を得るために最大の広告ネットワークへ集まる傾向があるため、中央集権化の流れを強めることです。
今日、世界人口のほぼ3分の2がオンラインになり、インターネット上で生み出され流通するデータや資産が増えるにつれて、中央集権化の害が顕在化しています。中央集権化は、個人のプライバシーへの侵入や個人情報の利用を容易にします。圧倒的な支配力を持つため、インターネットプラットフォームは消費者に利益をもたらしたり、優れた顧客サービスを提供したりする動機を失い、利用者も選択し制御する権利を失います。中央集権型システムは無制限の権力を獲得し、そのプラットフォーム上の利用者とサードパーティー開発者の「生殺与奪」を支配します。世論による批判と法規制を除けば、それらを制約する手段はありません。

2015年、この状況を嘆いた Tim Berners-Lee は、Web を変革するため再び行動を起こしました。彼は、データの法的所有権を利用者に返すことを目標に、Solid と呼ばれる新しいアーキテクチャーの開発を始めました。Solid では、利用者の個人データを企業のサーバーではなく、利用者自身の「personal data pods」に保存し、それを信頼できるサーバーに置くよう設計されています。利用者は、自分のウェブサイトを構築するときと同様に、自らサーバーを運用することも、事業者にホスティングを任せることもできます。個々のアプリケーションに「personal data pod」の読み書き権限を与え、後から取り消すこともできます。さらに、アプリケーション提供者は保存の負担や削除のリスクを心配する必要がありません。
さまざまな種類の個人データの中でも、個人のアイデンティティーは最も重要です。個人は財産を所有し、何らかの評判を持つ可能性があります。これにより、W3C の専門家の間で「Self-Sovereign Identity」と呼ばれる概念が生まれました。つまり、物理的な自己を管理できるのと同じように、誰もが自分のデジタルアイデンティティーを選び、管理できるということです。この概念は、私たち全員が基本的人間の尊厳を持って生まれるという事実を尊重しています。

Self-Sovereign Identity(SSI)は、利用者が完全に制御する、自ら統治するデジタル上の自己です。利用者のアイデンティティーに関連するデータは、暗号技術と分散型台帳技術によって安全に保存され、非公開で検証できます。アイデンティティーの発行を Facebook のような第三者に頼る必要はなくなります。人々は自分のアイデンティティーを作成、所有、管理し、どの情報を誰と、どのような状況で共有するかを決められます。現状では、利用者はオンライン上の自分のアイデンティティーを管理できず、政府や Google、Facebook、Twitter、LinkedIn などの企業が定めた利用規約に従わなければなりません。これらの企業は今後もアイデンティティー情報のエコシステムで役割を果たせますが、新しい自律型アイデンティティーツールが力の均衡を変えます。大組織が個人に奉仕するのであり、その逆ではありません。
幸い、インターネットの急速な進化と普及により、SSI を実現する土台は整っています。スマートフォンの普及によって、ほぼ全員がすでに高い計算能力を持つ機器を所有し、モバイルネットワークサービスが広く行き渡ったことで、ほぼ誰もがインターネットへアクセスできます。バーコードのスキャンはすでに一般的な利用者行動となり、新たなブロックチェーン技術はハッシュ暗号化と改ざん防止の機能を可能にします。可能性を実現する環境は整っています。
今から30年後、Self-Sovereign Identity こそが、インターネットを本来の分散型の思想へ押し戻した支点だったと証明されているでしょう。
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Decentralization
単一の性質ではなく、部分ごとに問うべき問いです。誰がこれを変更できるか、誰が差し止められるか、そして後から誰が検証できるか。多くのシステムは一部の要素だけが分散的です。
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DID
DID はデジタル識別子です。保持者と検証者が、そのアイデンティティを誰が管理し、ある主張が誰に関わるかを確認するために使います。DID はウォレットではなく、アプリケーションのアカウント、サインイン方法、権限ルールを置き換えるものではありません。